江戸時代、幕府公認の遊郭である吉原をはじめ、全国各地には遊女と一夜を共にできる遊郭が立ち並んでいました。そこで働いていたのは、多くの場合、親や夫の借金の肩代わりとして売られてきた女性たちでした。彼女たちは借金を返済するため、年季が明けるまで多くの客を取らなければならなかったのです。

そんな過酷な環境の中でも、吉原で最も位の高い女性たちがいました。彼女たちは豪華な衣装に身を包み、美貌と教養を兼ね備え、その名を歴史に残しました。彼女たちは「花魁（おいらん）」と呼ばれ、尊敬と憧れの対象でもありました。今回は、歴史上に名を残す有名な花魁と、悲劇の遊女「若紫」の最期に焦点を当ててお話しします。

悲劇の花魁：仙台高尾

花魁の中でも、特にその悲劇的な最期が語り継がれているのが「二代目仙台高尾」です。彼女は美しさだけでなく、詩歌を好み、書道にも優れた才女として知られていました。しかし、彼女の最も特徴的な点は、金に物を言わせる客には決して屈しなかった気高さです。

その象徴的なエピソードが、仙台藩主・伊達綱宗との間に起こった「身請け」の話です。綱宗は高尾を気に入り、身請けを申し出ますが、高尾は将来を誓い合った恋人がいたため、彼の申し出を断りました。

彼女の恋人は鳥取藩の侍でしたが、身請け金を払う力はなく、二人は高尾が年季明けまで待つことを決意していました。

しかし、綱宗は諦めず、身請けの条件として高尾自身の体重と同じ重さの金額を提示しました。高尾はありったけの衣装と装飾品を身に着け、その総額は三千両にも達しました。当時の価値で億円相当の金額でしたが、綱宗はその金額を支払い、高尾を身請けしました。

それでも、高尾は身請け後も綱宗との関係を拒み続けました。その結果、怒りを買った綱宗は、隅田川を下る船の中で高尾を逆さ吊りにし、最終的に彼女を切り殺したと言われています。仙台高尾の最期は、今も悲劇の花魁として語り継がれています。

大名の側室となった榊原高尾

もう一人の有名な花魁が「榊原高尾」です。彼女は吉原随一の高級遊女として名を馳せ、大名の側室となった唯一の花魁でもあります。姫路藩の大藩主・榊原政邦が彼女に一目惚れし、身請けしたことで知られています。

しかし、当時は「享保の改革」が行われており、贅沢が厳しく禁じられていた時代でした。政邦は吉原で高尾を指名し、身請けまで行ったことで、幕府から厳しい叱責を受け、身分剥奪の危機に陥りました。

しかし、家臣の弁明により、越後高田へと左遷され、隠居生活を送ることになります。

榊原高尾も政邦と共に越後高田へ同行し、そこで政邦を支えました。政邦はその後、民を思いやる賢君として称賛されるようになり、高尾も「賢妻」として評価されました。彼女は政邦の五台を弔いながら、68歳の生涯を全うしました。多くの遊女が不幸な結末を迎える中で、彼女の生涯は稀に見る幸福なものであったと言えるでしょう。

悲劇の遊女：若紫

最後に紹介するのは、悲劇的な運命を辿った遊女「若紫」です。若紫は明治時代に生きた遊女で、吉原でその美貌と知性から絶大な人気を誇っていました。彼女は幼い頃に吉原に連れてこられ、17歳で遊女となりました。

若紫は多くの富豪たちから身請け話が持ち上がりましたが、彼女が選んだのは長年交際していた恋人でした。年季が明け、自由の身となり、恋人との幸せな生活を目前に控えていた若紫。しかし、そんな幸せの絶頂から彼女を叩き落とす事件が起こりました。

ある日、別の遊女と無理心中を図ろうとしていた男が、その遊女が他の客を取っている場面を目撃して激昂し、やけになった男は、若紫の喉元を刀で斬りつけました。

若紫はわずか22歳という若さで命を落としました。

若紫の年季が明けるのは、そのわずか5日前のことでした。彼女の墓は城幹寺にあり、遊女がきちんと墓に葬られることは非常に珍しいことから、彼女の特別な存在感がうかがえます。